百鬼夜行に遅刻しました

 オリジナルの小説を中心に 偶にゲーム 時々映画 稀にミステリー 膝には猫で お送りしたい所存です。

其のシチューを 再び味わおうか  

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今回は 八少女さんのブログでの 三周年企画 「scriviamo! 2015」 への提出作品です。
昨年書いた マンハッタンの安食堂の片隅に座っている老人 
あの人物の 横顔の様な短編です。

それにしても… 自分のブログの三周年 十二月だった…
忙しさで忘れていたよ… なにかしようかなぁ いまさらかなぁ…

下記からどうぞです。



      其のシチューを 再び味わおうか

 「 ……Stand by Me  …」

マンハッタンの冬は カナダからアップステートやペンシルバニアを 吹き抜けて来た風が荒れ狂う。
毎年 ひっそりと凍死するホームレスが出るほどに 乾燥し そして寒い。
雲一つない空は 何処までも青くクリアーで エンバイアーステートビルから空に手を伸ばす。
路上の白いスチームが湯気が 人影をぼんやりと霞め 一時幻想的な風景を作り出す。

 「Stand by Me 」
月に数回 散歩の途中で 好んで立ち寄る安食堂の片隅では 人生の一片が落ちている。
一人にしないで… と アメリカンドリームの前に ウェイトレスが小さく呟く。 

私と 私も同じなのですよ。
アメリカンドリームと言う名の毒薬に侵されて 一時の綺麗な綺麗な夢を見ていた。

此の マンハッタンの安食堂には 昔の私と同じ匂いを放つ若者が吹き溜まっている。
自分は人とは違う 何時かきっと才能が認めらると根拠のない自尊心を奮い立たせるために 
若い恋人の睦言の様に 唯々 熱のない言葉を繰り返し 自身の不安を隠す。 
唯 チャンスが掴めないだけだと心の奥底で納得し 
傲慢で不遜な深い罠に絡み取られている事に 気付かない。

そう 私がまさに そうだったのですよ。

私は バスターキートンになりたかった。
そう あの喜劇王と褒めたたえられた 鮮やかなチャップリンの影となってしまったキートンに…
キートンは時代に取り残され 酒に溺れ衰退し 其れでも 無様に足掻き 映像を撮り続ける。
偉大なる無表情を誇らしげに 能天気でロマンチックなパッピーエンドを描き続ける。

そして チャップリンは 自身の美しい時しか見せなかった。
自身が衰える前に 自分の時代が去る前に 美し姿だけを人々の記憶に焼き付け 銀幕から去って行った。
唯 私には チャップリン演じる 一介の労働者が 昼食時にバスケットから
チキンのモモ肉を取り出し齧り付く。
あの何気ない 一シーンが私には衝撃的で… アメリカの底知れぬ豊かさを思い知らされた。
古びた映画館の 赤いベルベット地の椅子に凭れ掛り 私は自身でもよく解らない 涙が頬をつたっていた。
私は 嬉しかったのだろうか 悔しかったのだろうか 悲しかったのだろうか…

若い頃の私は 私的に短編映画を撮り アメリカンドリームを掴む為に コンペディアに出品し続けていた。
そう キートンに憧れ続けていた私は チャップリンの様な人の情に訴えるモノを避け
カラリと乾いた 意味のない笑い その一瞬だけでいい全てを忘れて笑い 其の後は何も残らなくていい。
その様な 一瞬のカタルシスを求める様な作品を撮り続けていた。
そうして 私は気付いたのですよ。
笑いは 天才だけが創りえるもので 才能の壁が大きく立ちはだかり 笑いが私を蝕んでいく事を。
私は 逃げた 
映像を撮る事を止め 自身の才能の無い事を 止める事に拠って有耶無耶にした。 

私は キートンの様に無様に喰らいつき 足掻きたっかったのに 足掻く為の才能もなかった。

「Stand by Me ……」
其の頃 なんとなく付き合っていた女が 去っていく前に 呟いた言葉。

女は言った。
「止めてしまうの…」
私は 自嘲を込め 憮然と意味のない怒りを込め ぶっきら棒に返事する。
「いつまでも 青臭い遊びをやってられないからな。」

女は 色々な言葉を呑み込み 唯 一言 「 そう…」 と…
肯定でも否定でもない言葉を口にした。

私は 自身を納得させるためか いや アメリカンドリームを諦めた言い訳の為か…
唯 話したかっただけなのか グダグタと如何でもいい言葉を続けていた。
唯 女は待っていたのだろう 一緒に来てほしいと言った言葉を。

女は… 
「Stand by Me 」 と呟いて… 其の後は 知らない。
何処へ行ってしまったのか 其れとも いまだに このマンハッタンにいるのか
夢を追いかけているのか 諦めたのか 夢を捕まえたのか 別の夢を追いかけているのか。

「…… Wollman Rink …」
先程 一人にしないでと呟いていたウェイトレスが 此の食堂名物料理 シチューの定食を配膳しつつ
馴染みの客と お喋りを楽しんでいる。
冬のマンハッタンの楽しみ 野外スケートリンク Wollman Rink。
セントラルパークの森と マンハッタンの摩天楼の高層ビル群が同時に見渡せ 
非常に景観が美しく ロマンチックな為 数々の映画に登場している。

そうそう 人生を楽しみなさい 若い人よ。

私は ふっと…
此の安食堂に行き交う人々の横顔を フィルムにおさめたいという衝動を覚えた。
いまだに 自身の心の奥底に潜む情熱 青臭さに驚き  辟易する。
私は仕方ないなぁと言った感じの微笑を口の端に浮かべて 冷めて不味くなってしまったシチューを
口に運んだ。  
 
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category: 贈答

コメント

うひゃあ

こんばんは。

ありがとうございます!
マンハッタンの桜を教えてくれたおじいさんが若いころを回想しているんですね。
そして、このウェイトレスも《Cherry & Cherry》の誰か……。
スペシャル(残飯整理)セットを食べに通ってくれるご老人。
この古い映画の一シーンのような情景がいい感じです。

「マンハッタンの日本人」シリーズ、何故かどんどん続いていきます。
皆さんの設定を壊さないように、ウゾさんバージョンの続きを書かせていただきますね。

URL | 八少女 夕 #9yMhI49k
2015/01/07 06:06 | edit

ウゾさんの綴る物語は、どこか古き良き時代のセピア色をしていて、味わい深いです。
掴めなかった夢と恋を静かに思い出す老人。
マンハッタンシリーズ再び、ですね。
夕さんのお返しも楽しみです。

URL | lime #GCA3nAmE
2015/01/07 20:45 | edit

八少女 夕さん へ

 こんばんは。
何となく書いてみたくなる魅力と言うか 魔力があるのですよ。
マンハッタンの安食堂に行き交う人々って…
冬のマンハッタン 凄く寒くて 路上の湯気のスチームが白く煙っていて… あーゆー風景が凄く絵になる。

マンハッタンシリーズ 今年も続いていますねーーーー
色々な人物が増えて 面白いです。

八少女さんの描く続く楽しみにまっています。

コメント有難う御座いました とても嬉しいです。

URL | ウゾ #-
2015/01/07 20:56 | edit

limeさん へ

 こんばんは。
そうですねーーーー一年ぶりのマンハッタンです。
此の老人を再び書くとは… もう書く事ないだろうと思っていたのですが 何となく ふっと物語が降って来て書いてしまいました。

探偵もどきの続きを書く心算で ブログを開いたのに 出来上がったのは 老人…
ごめん ハロルド… 休みには書くから…

そうそう 僕も八少女さんの続き楽しみです。

コメント有難う御座いました とても嬉しいです。

URL | ウゾ #-
2015/01/07 21:00 | edit

21:18に拍手コメント頂いた方 へ

 こんばんは。
うん 気が付くと三周年過ぎていた…
十二月忙しかったからなぁーーーー 体調も長々と風邪ひいていたし…
うん 無理しない程度に 楽しいと思える程度にがんばるよ。

拍手コメント有難う御座いました とても嬉しいです。

URL | ウゾ #-
2015/01/07 21:04 | edit

わーー、こういう話は40才くらいじゃないと実感できないかな?
とても少年の描く小説とは思えません。
が、こういうのは「確かな事実」ですね。
こういう人たくさん見ましたもの。
そして・・多分、自分も。

でも、まだ「夢」の続きが・・・。

ところで「バスター・キートン」知っている人どれくらい居るかな?
ウゾさんの年代では「皆無」でしょうね☆

URL | ペチュニア #-
2015/01/07 21:34 | edit

ペチュニアさん へ

 こんばんは。
うん けっこう沢山の方が持っている 挫折の記憶ですねーーー
恋だって 積極的になれる人の方が少ないだろうし…
多くの方が あの時ああしていればといった記憶はありますからね。

三大喜劇王のチヤップリンとキートンは 作品見た事あるのですが… ハロルド ロイドの作品って まだ見た事ないのですよね。

コメント有難う御座いました とても嬉しいです。

URL | ウゾ #-
2015/01/08 21:29 | edit

マンハッタン……

映画のシーンとして本当に似合う町ですよね。それはきっと人々の夢が街角のあちこちに隠れているからなんだろうな。
喜劇って、そこはかとなく悲しいんですよね。それがこの街に似合うのでしょうか……
それにしても渋い目線ですよね。
これに夕さんがどんな切り返しで来られるのか、とても楽しみです。

URL | 大海彩洋 #nLQskDKw
2015/01/09 21:53 | edit

私も昨日シチューを食べましたね~~。
あの深い情熱的な温かさは冬に感じれるものだと思います。
やはり冬のシチューもおいしいですね。
小説じゃなくて、シチューの話になってしまった。

URL | LandM #-
2015/01/09 22:31 | edit

大海彩洋さん へ

 こんばんは。
確かに 映画の似合う街ですよねーーーー 
マンハッタンにハリウッド 此の辺りは 凄く古き良き時代のアメリカンドリームの象徴ですねーー
喜劇って…ほんとに 観客は笑っているけれど 登場人物は笑っていないのですよね。
そこが そこはかとなくもの哀しい。

うん どのような感じで切り返すのか 楽しみです。

コメント有難う御座いました とても嬉しいです。

URL | ウゾ #-
2015/01/10 22:15 | edit

LandMさん へ

 こんばんは。
シチューいいですよねーーー 牛乳たっぷりのクリームシチューもいいし こってりとしたビーフシチューも美味しいし。
冬場の熱いシチューは いいですよねーーー
うんうん 食べ物の話は 楽しいですよね。

コメント有難う御座いました とても嬉しいです。

URL | ウゾ #-
2015/01/10 22:22 | edit

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